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第3回 AWS ジャパン 生成 AI Frontier Meet Up ~学びと繋がりの場~ 開催報告
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS ジャパン)が 2024 年 7 月に発表した「生成 AI 実用化推進プログラム」は、生成 AI の活用を支援する取り組みです。基盤モデルの開発者向けと、既存モデルを活用する利用者向けの 2 つの枠組みを提供し、企業の目的や検討段階に応じた最適な支援を行っています。
その「生成 AI 実用化推進プログラム」の参加者や、GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)の関係者、生成 AI に関心を持つ企業が一堂に会する「生成 AI Frontier Meetup」が、2025 年 4 月 16 日に開催されました。2024 年 11 月 15 日に実施された第 1 回、2025 年 2 月 7 日に実施された第 2 回に続き、今回が第 3 回となります。本記事では、そのイベントの模様をレポートします。
本イベントの司会進行は、AWS ジャパンの事業開発統括本部 生成 AI 推進マネージャーである梶原 貴志が務め、全体を通じて登壇者の紹介やセッションの案内を行いました。
開会のご挨拶
イベント冒頭では、AWS ジャパンの代表執行役員社長である白幡 晶彦が、AWS の生成 AI に関する取り組みと今後の展望について挨拶しました。
AWS がこれまで日本における生成 AI 開発を支援してきた実績を紹介しました。2023 年には「AWS LLM 開発支援プログラム」として 17 社を支援し、2024 年には 150 社超が参加する「生成 AI 実用化推進プログラム」を実施。さらに、経済産業省・NEDO が主導する「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」でも 13 社を支援しています。
白幡は、本イベントで支援企業 5 社による事例発表や、2025 年度の新たな支援プログラム構想の発表が予定されていることを説明。最後に、参加者への感謝を述べるとともに、イベントを通じて新たな価値が生まれることへの期待を込めて挨拶を締めくくりました。
AWS スピーカーによるセッション
続いて、AWS ジャパンの Data & AI 事業統括本部 事業開発マネージャーである井形 健太郎が、生成 AI を活用したビジネス価値創出の最新動向と導入事例について解説しました。2025 年は、生成 AI から「ビジネス価値」を生む年であるとし、国内外の活用事例を紹介しました。
まずは、日本企業による 3 つの具体的な取り組みです。1 つ目のカラダノート社は、中途採用業務に生成 AI を導入し、履歴書の内容を基準と照らし合わせて自動評価する仕組みを構築。Slack との連携も含めて業務フローを見直し、作業時間を約 42% 削減しました。また、面接判断のばらつきを平準化できたことも成果の一つとして挙げられました。
2 つ目の PURPOM MEDIA LAB 社は、HAQM Bedrock を活用したビジネスモデルキャンバス生成機能を開発。パートナー、チャネル、収益構造など 9 項目の情報を AI が自動で整理し、新規事業の検討・検証にかかる時間を大幅に短縮しています。
3 つ目の Nint 社は、EC モールのデータ分析業務に生成 AI を活用し、非エンジニアでも使いやすい対話型の分析ツールを構築しました。HAQM Bedrock のエージェント機能も活用し、最大で 80% の作業効率向上を実現しています。
続いて、海外事例としてカリフォルニア大学ロサンゼルス校による卒業生向け寄付金依頼の取り組みを紹介。4 万 5,000 人の卒業生に対して、個別最適化されたメールを生成 AI で作成・送信した結果、寄付額が 132% 増加するという成果が得られたといいます。
また、韓国企業による先進的な事例も複数紹介されました。ビジネスコラボレーションツールを展開する Toss Lab 社は、日本やアジアの組織文化に合わせた独自の検索機能や、AI による要約・分析機能を構築。コンピュータービジョン領域で事業展開する Superb AI 社は、自動運転やセキュリティ、製造などの産業向けに特化したビジョン AI プラットフォームを提供しています。さらに、IT 教育プラットフォームを展開する InfLab 社は、字幕生成や多言語吹き替え機能を実現し、言語の壁を越えて学習コンテンツを提供しています。
これらの事例を踏まえ、井形は「生成 AI の活用にはアプリケーションだけでなく、しっかりとしたデータ基盤の整備が不可欠」と指摘。ストリーミングデータや構造化・非構造化データの循環的な活用を通じて、継続的に精度と価値を高めるサイクルを構築することが重要だと述べました。
セッションの終盤では、HAQM の財務部門が RAG ( Retrieval-Augmented Generation ) を活用して、複雑な財務データの処理や意思決定支援を行っている事例も紹介されました。生成 AI が膨大な非構造化データを文脈ごとに検索・解釈し、リアルタイムで的確な提案を行う仕組みは、今後あらゆる業界において応用可能であるといいます。
最後に、ソフトウェア開発生成 AI アシスタント「HAQM Q Developer」が新たに日本語対応を開始したことがアナウンスされました。
プログラム参加者の成果発表
生成 AI 実用化推進プログラムに参加する 5 社の企業代表者が登壇し、AWS のサービス利用を軸にした取り組みを紹介しました。AWS ジャパン サービス & テクノロジー事業統括本部 技術本部長の小林 正人(写真右)と、AWS シニア スタートアップ ML ソリューションアーキテクトの針原 佳貴(写真左)がモデレーターを務め、登壇者に質問を投げかけつつ進行しました。
株式会社野村総合研究所 生産革新センター AI ソリューション推進部の大河内 悠磨 氏は、業界・タスク特化型 LLM の開発と活用事例について紹介しました。野村総合研究所では、保険営業におけるコンプライアンスチェックをテーマに、小規模なオープンモデルに継続事前学習と指示チューニングを施し、専門知識に特化した LLM を構築。GPT-4o を上回る正解率を記録しました。さらに、AWS の AI チップを活用して学習・推論のコスト削減も実現しています。今後は保険に限らず、他業界や多様なタスクへの応用を視野に入れ、研究と実証を進めていくと述べました。
国土交通省 総合政策局 公共交通政策部門 モビリティサービス推進課 総括課長補佐 Project LINKS テクニカル・ディレクターの内山 裕弥 氏は、国土交通省の横断的な DX を推進する「Project LINKS」について紹介しました。本プロジェクトでは、紙や PDF など非構造化された膨大な行政データを、LLMを活用して正規化されたデータにする仕組みを開発しています。2025 年にはプロトタイプとして「LINKS Veda」を構築。文脈理解に基づくデータ抽出やノーコードでの構造化処理に加え、ハルシネーション対策やチャット検索機能も備えています。
フリー株式会社の AI プロダクトマネージャーである木佐森 慶一 氏は、クラウド会計ソフト「freee 会計」の新機能「AI クイック解説」を紹介しました。財務データの読み解きに不慣れな方でも活用できるよう、LLM を用いて自然言語でわかりやすく解説する仕組みです。ジュニア層の場合は 10 時間以上、シニア層でも数時間の作業負荷軽減が期待できるといいます。近く実装予定のアップデートにより、さらに進化した機能が披露される予定です。
株式会社 NTT データ テクノロジーコンサルティング事業部の鯨田 連也 氏は、第1回 Meetup がきっかけとなった、株式会社 昭栄美術と協業して取り組んだクリエイティブ業務支援における AI エージェント活用の事例を紹介しました。Web 検索、デザイン案生成、画像生成といった機能を担う複数のエージェントを、スーパーバイザーエージェントが統括・連携する構成を採用。展示会ブースデザインにおける情報収集やアイデア創出の属人化、手戻りの多さといった課題に対応し、大幅な効率化を実現しました。今後は機能改善を進め、幅広いお客様の業務への適用を目指しています。
株式会社エイチ・アイ・エス DX 推進本部 サービスプラットフォーム企画部の李 章圭 氏は、旅行相談窓口における業務効率化プロジェクトについて紹介しました。本事例では、英語で記載された販売条件書の読み取り業務を AI により代替することで、事務作業の負荷を軽減し、顧客との対話時間を増やすことを目指しました。HAQM Bedrock を用いた PoC を経て、要約・構造化処理の仕組みを構築。試験導入を経て、現在は関東全店舗に展開しており、5 月以降は全国 150 店舗への本格導入を予定しています。
クロージング
各セッションの終了後、AWS ジャパン Data&AI 事業開発部の瀧川 大爾がクロージングを行いました。生成 AI の社会実装を推進する取り組みとして、2025 年度も「生成 AI 実用化推進プログラム」を継続実施することを発表しました。昨年度に続き、企業や自治体、スタートアップなど、さまざまな組織を対象に、生成 AI の活用支援を行う予定です。
2025 年度の「生成 AI 実用化推進プログラム」では、企業の課題やフェーズに応じて選べる 3 種類のコースが用意されています。
1 つ目の「モデルカスタマイズコース」は、既存モデルより高精度な応答や目的特化型の生成を求める方向けで、計算リソースの調達支援や実装・事業化までの伴走支援を提供します。
2 つ目の「モデル活用コース」は、公開モデルを活用して課題解決を目指す方向けで、事例共有を起点に、ユースケース特定から実用化までを一貫して支援します。
3 つ目の「戦略プランニングコース」は、生成 AI をビジネスの中核に据えたい企業向けで、AWS とパートナー企業が連携し、業務コンサルテーションから導入支援までを包括的にサポートします。
なお、プログラム期間中には成果共有やネットワーキングを目的とした交流イベントも実施される予定です。参加される企業様は、「生成 AI 実用化推進プログラム」ページ内の Web フォーム(「登録する」)からお申込みください。
参加者交流会の様子
交流会では、各セッションで紹介された実践事例をもとに、登壇者と参加者が垣根なく意見を交わす姿が多く見られました。生成AIの導入における具体的な工夫や課題、今後の展望について活発な対話が繰り広げられ、会場は終始熱気に包まれていました。業種や立場を越えたネットワーキングも進み、現場での学びを共有しながら、今後の連携や共創のきっかけを築く機会となりました。こうしたオープンな対話の積み重ねが、生成AIのさらなる社会実装を後押ししていくことが期待されます。
また、生成 AI 領域で先進的な取り組みを進めるカラクリ株式会社 (写真上) とストックマーク株式会社 (写真下)が、会場内に開発者ブースを出展されていました。自社で構築したモデルやプロダクトに関する技術的な知見を共有し、多くの参加者と活発な意見交換を行っていました。
おわりに
本イベントでは、登壇者による実践的な知見の共有に加え、参加者同士の意見交換やネットワーキングが随所で行われ、会場全体に前向きな熱気が広がっていました。生成 AI の社会実装に向けた最新の取り組みや、具体的な業務への応用例が紹介され、実務に直結する学びの多い時間となりました。AWS ジャパンは、今後も業界横断での連携や技術支援を通じて、企業の生成 AI 活用を後押しし、持続的な実用化に貢献していきます。