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Hannover Messe 2025 AWS ブースレポート

2025/3/31 – 4/4に世界最大規模の製造業展示会ハノーバーメッセが開催されました。AWS は「Built for Industrial AI」をテーマに、ものづくりの全プロセスにおける AI の活用を訴求しました。AWS ブースには、AWS のフォーカスエリアである「Smart Manufacturing」「Smart Products」「Engineering & Design」「Supply Chain」「Sustainability」の5つのエリアに 13 の AWS キオスクと、39 のパートナーキオスクの計 52 のキオスクが設置されました。日本からも多くのお客様に来場頂き、私たち AWS Japan の製造業担当スペシャリスト、営業、ソリューションアーキテクトがブースツアーという形で AWS のブースをご紹介しました。

このブログでは AWS ブースの概要と展示ソリューションについてご紹介します。

AWSブース全体像

写真1:AWS ブース全景

こちらが AWS ブースの全景です。AWS 製造業向けにフォーカスエリアである「Smart Manufacturing」「Smart Products」「Engineering & Design」「Supply Chain」「Sustainability」と生成 AI を活用したユースケースの実装例が入口近くに展示されていました。昨年のハノーバーメッセでの AWS ブースからの変化点として大きく3つ挙げておきます。

  • ビジネスに貢献する生成 AI の実装

    昨年までの生成 AI のコンセプト紹介やシンプルなチャットの展示からフェーズが進み、業務のユースケースにおける具体的な課題および「人手不足」「匠の技の伝承」などの業界課題を解決する手段として生成 AI の活用が進み、実装が進んでいます。AI エージェント形式での実装も進み、高度なタスクをこなせるようになってきています。
  • すぐに使える Vertical SaaS の増加

    不確実で変化の早い市況に対応するためには新しい取り組みの PoC を早期に完了して業務活用に進める必要があります。産業機器接続、OT Security、データ基盤など製造業に特化した パートナー企業が提供する SaaS の増加によりすぐに価値検証や本番導入を進められる状況が整ってきています。
  • DataOps の加速

    2 の SaaS の増加とも関連しますが、とりわけ Smart Factory は机上のコンセプトから実用フェーズに移り、単に機器からデータを吸い上げるだけではなく持続的な運用に必要なツールが増加しました。具体的にはデータの加工、統合、データモデリング、エッジ側での異常検知など高度な機能を持つソリューション(HighByteLITMUS 等)が増加しています。企業全体のデータ活用(Digital Thread)の実現も、生成 AI の登場により技術的な障壁は下がり始めています。

それでは、ここからは各ブースの注目展示についてご紹介していきます。

Smart Manufacturing

写真2:昨年に引き続き展示された e-Bike Smart Factory デモ

昨年のハノーバーメッセでは中央に鎮座していた e-Bike Smart Factory デモが今年も展示されていました。様々なベンダーの製品を組合せたリアルな工場ラインだけでなくエンジニアリングチェーンからサプライチェーンまで一気通貫で AWS 上で動かすというショーケース的なデモになっています。一方で今年は少し端の方に寄せられており、その代わりに中央に配置されていたのは、地元ドイツの企業である SYNAOS によるマルチベンダーの AMR/AGV コントローラーによるデモです。

写真3:SYNAOS によるマルチベンダーのAMR制御デモ

KUKASHERPA のメーカーの異なる AMR を協調制御していました。既に VW 社において 40 メーカー 160 台を超える AGV / AMR / フォークリフトを制御していると紹介されていました。現在 45 メーカーに対応しており、日本のメーカーではオムロンに対応しているとのことで、テスト環境では最大 600 台まで制御可能とのことです。

写真4:AWS Industrial Data Fabric ブースと説明員の Scott 氏

DataOps に関連して数年前から AWS が提唱している Industrial Data Fabric (産業データファブリック) に関しても様々なパートナーの参画によってパートナーソリューションを組み合わせたデモが行われていました。また、ハノーバーメッセ開催期間中には日立製作所様が国内初の IDF パートナーとして登録されました。産業データファブリックについては今年の 6 月に開催する AWS Summit Japan 2025 でも展示が行われますのでご期待下さい。

写真5:Process Manufacturing on AWS ブースと説明員の Mickael 氏と Miguel 氏

もう一つ、プロセス製造業における技術伝承や人材不足といった課題に対して、日々の口頭によるやり取りをノウハウとして蓄積し AI アシスタントとして業務に活用するデモを行いました。実はこちらは日本のソリューションアーキテクトが昨年の AWS Summit で作成して大好評だったデモをベースに多言語化させたものになります。

Smart Products

写真6:Smart Products & Service on AWS ブースと説明員の山本氏と新澤氏

Smart Products のブースでは製品の開発と運用の観点で2つの展示を行い、ソフトウェアの遠隔更新や、HAQM Q Developer, GitLab Duo といった生成 AI の活用により組み込みソフトウェア開発を加速する日本発のデモと、IoT の機能を組み込んだスマートプロダクトから得られた情報からアフターサービスをシームレスに行うデモを展示しました。このデモでは生成 AI エージェントを活用し、来場者の関心も高く、生成 AI の使い方が具体的でイメージが出来たと好評でした。

写真7:デバイスウォール

工場設備だけでなくスマートプロダクトを AWS に安全かつ簡単に繋ぐ方法として AWS IoT GreengrassAWS IoT ExpressLinkFreeRTOS があります。これらに対応した認定デバイスがデバイスウォールとして展示されていました。開催場所がヨーロッパということもあり、日本ではあまり見かけることの少ないメーカーも多くありました。またデバイスウォールの左上にあるデバイスは既存の通信機能がない製品に組み込んで使って頂くようなデバイスとなっており、こんなものまで出しているんだと驚きの声が聞かれました。パートナーデバイスに興味のある方は是非こちらからご覧ください。

Engineering & Design

写真8:Engineering & Design on AWS ブースと説明員の Patrice 氏

Engineering & Design のブースで注目を浴びていたのは、生成 AI を活用し 2D の写真から 3D のモデルを生成してシミュレーションまで行うというデモです。こちらはワークショップの形で公開されています。ご興味がある方は一度トライしてみては如何でしょうか?またシミュレーションの分野では今までインプット条件に対して大量のコンピューターリソースと時間を掛けてアウトプットとなるシミュレーション結果を生成していたものを、サロゲートモデルと呼ばれる機械学習を用いてシミュレーション結果を予測することで、従来のシミュレーションに比べて時間とコンピュータリソースの削減を行うデモも行っていました。大量のシミュレーション条件を微調整して頻繁に行うことが多いユースケースにおいては有効な手段となる可能性があります。日本のお客様でも取組みを始めていらしゃるようですが、まだまだ知られていないこれからの技術だと思います。

Supply Chain

写真9:AWS Supply Chain のブースと説明員の Pawel 氏

Supply Chain のブースは昨年に引き続き AWS Supply Chain を中心に e-Bike Smart Factory と連携した展示を行っていました。AWS Supply Chain は、AWS では珍しいビジネスアプリケーションとして提供されており、既存のシステムの外付けで在庫の可視化や分析及び最適化を行うことができるサービスとなっています。昨年との大きな違いとしては、昨年末に reInvent で発表された BMW との協業による Catena-X への対応です。2025 年中の正式リリースに向けて、今回は画面イメージを説明していました。

Built for Industrial AI

写真10:毎日盛況だった Built for Industrial AI のコーナー

AWS ブースの入り口にあった 4 つのユースケースを想定した生成 AI の実装例が展示されていたコーナーには常に人だかりが出来ていました。昨年末にリリースされた AWS IoT SiteWise Assistant による設備から取得されたデータの内容を生成 AI が人が理解しやすく自然言語でサマリーしてくれるデモ。生成 AI アシスタントである HAQM Q Business を使った製造現場のドキュメントを使ったデモ。クラウド上でファインチューニングされた生成 AI モデルをエッジデバイスで動かし製造現場での利用を想定したアシスタントのデモ。などの展示を行いましたが、このブログでは最もお客様からの反響が大きかった生成 AI を使った外観検査のデモについてご紹介します。

写真11:HAQM Nova を使った外観検査のデモ

これまでの機械学習モデルによる外観検査では、良品 / 不良品の画像を事前学習し、その物体専用の機械学習モデルを作成する必要がありました。最新の生成 AI のモデルでは、マルチモーダルと呼ばれるテキストだけでなくインプットされた画像を理解出来るようになってきているのはご存じの方も多いと思います。マルチモーダルに対応した HAQM Nova を使って事前学習無しで、様々な物体の外観検査をプロンプト(生成 AI への指示文章)だけで行うというデモです。検出精度やスピードに驚かれているお客様が多かったです。実際の現場でさっそく試してみたいという声も聞かれました。

まとめ

このブログでは 2025 年のハノーバーメッセにおける AWS ブースの概要と注目の展示をポイントを絞ってお届けしました。熱気に満ちた 5 日間のハノーバーメッセの雰囲気が少しでも伝わったでしょうか?今回のブログは速報という形でお届けしましたので、パートナーブース含めて、まだまだお伝えしきれないことが沢山あります。そちらについては、4 月 24 日にハノーバーメッセに関する無料ウェビナーを開催致しますので、ぜひそちらも合わせてご覧ください(お申込みはこちら)。我々日本のスタッフは、日本の製造業の皆さんの発展をサポートさせて頂きます。気になった内容があれば、担当営業もしくは、こちらまでお問い合わせ下さい。

来年のハノーバーメッセ(2026/4/20 – 4/24)では、日本の製造業の事例などが展示できることを期待しています。また今年の AWS Summit Japan(2025/6/25 – 6/26) でも製造業の皆さんに向けた展示や事例セッションなどが多数企画されています。こちらも是非早めのエントリーをお願いします。皆様にお会いできるのを楽しみにしています。

このブログは製造業担当のソリューションアーキテクト水野貴博が担当しました。

著者について

水野 貴博

水野貴博は、製造業のお客様をご支援しているソリューションアーキテクトです。サプライチェーン領域を得意としており、好きな AWS サービスは AWS Supply Chain です。趣味は、ドラマや映画のエキストラに参加することです。