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Formula 1® のパワーユニットの組立プロセス最適化のため AWS が Scuderia Ferrari HP 社をサポート

勝負が紙一重で決まる Formula 1 (F1) の世界では、継続的な成功にはイノベーションが不可欠です。何十年もの間、チームは自動車技術の限界に挑戦し、常に変わりゆく環境のなかで優位に立つことを模索してきました。Scuderia Ferrari HP 社と HAQM Web Services (AWS) のコラボレーションは、データ主導型の製造によって組立プロセスを再定義しています。

イノベーションを求める共通の取り組みにより、製造データクラウド移行のためにAWS は Scuderia Ferrari HP 社と協力しました。これには、あらゆる F1 カーの生命線である、個々のパワーユニットの準備と組み立て中に生成される膨大な量のデータが含まれていました。HAQM SageMaker AI による機械学習 (ML) の機能を活用することで、チームは新しく作成したデータレイクの上に高度な処理パイプラインを構築しました。このアプローチにより、チームは詳細を調べ、結果を過去のデータと相関させることができ、分析能力が向上しました。チームは、以前の手動による方法と比較して、少なくとも 4 倍の量のデータを処理できるようになり、さらに半分の時間で分析結果を得ることができるようになりました。

レギュレーションとスピードに合わせたパワーユニットの調整

トラック上で最速で規制車が登場する F1 は、最高レベルのモータースポーツレースであり、国際自動車連盟 (FIA) によって厳しく規制されています。毎シーズン、ドライバーは、内燃エンジン、2つの電気モーター、ターボチャージャーのほか、エネルギー装置、電子制御機器、排気装置など、F1 カーに欠かせないパワーユニットに一定の要素を割り当てられます。

F1 はビッグデータのスポーツですが、ごく僅かなデータポイントによってチームの勝利を逃すことがあります。部品が制限を超えるたびにドライバーはペナルティを課せられるため、チームは厳しいテストを行い、シーズン前とシーズン中のパワーユニットの変更について非常に戦略的に取り組む必要があります。 2024 Formula One Sporting Regulations によりますと、一度制限を超える部品を使用されると、10 グリッドのペナルティが発生し、車が表彰台を獲得する可能性が大幅に低下します。

「パワーユニットは非常に複雑なため、当社の技術チームはレースで潜在的な問題を引き起こしうる欠陥に対処し先手を打っています」と Scuderia Ferrari HP Power Unit Assembly の責任者である Alessio Simi 氏が述べています。「AWS を導入したことで、他の方法では見逃してしまう可能性のある異常を検出でき、メインイベントのかなり前に調整を行う機会を得ることができました。」

図1 : 組み立てプロセスの一部

機械学習と生成 AI によるエンジニアリングの強化

2024 年のレースシーズンに向けて、チームはアプローチを改善し、エンジニアがより良いデータ分析結果をより迅速に入手するための方法を模索し始めました。モータースポーツシーズンは通常 3 月から 12 月にかけて行われるため、エンジニアがプレシーズンのデータ分析を行う時間は限られており、各レースの合間に最適化や調整を行う時間はさらに短くなります。AWS の強力なデータ基盤により、Scuderia Ferrari HP 社はアセンブリを一貫して監視できるようになり、コンポーネントを過度に交換しなくてもパワーユニットが F1 シーズン全体の厳しい状況に耐えられるようにします。

AWS は Scuderia Ferrari HP 社と協力して、HAQM Simple Storage Service (HAQM S3) を使用してデータレイクを構築しました。その後、チームは HAQM SageMaker AI を使用して処理パイプラインを構築し、複数の異なるソースからのデータを統合しました。製造中の包括的なテストと測定は、潜在的な欠陥や早期摩耗が発生しやすい部分を特定するのに役立ち、チームはコンポーネントが使用される前にこれらの問題に対処できます。

以前は、データが複数のシステムに分散している状態で、データ分析と評価は個々のエンジニアが手動で行っていたため、長期的に発生する故障につながる可能性のある問題の原因を突き止めることは困難でした。たとえば、ボルトが常に締めすぎているような僅かな違いにより、時間の経過とともにエンジンが不安定になり、トラック上に問題を引き起こすリスクが高まる可能性があります。各車に 300 個のセンサーが搭載されており、膨大な量のデータを手動で確認することはほとんど不可能になりました。「当社のエンジニアの専門知識は不可欠ですが、人間がテラバイト単位のデータを分析するのは合理的ではありません。」と Simi 氏は言います。

データが統合されると、データ分析を専門とする Scuderia Ferrari HP 社のエンジニアリングチームが HAQM QuickSight で一元化されたダッシュボードビューを作成しました。これにより、あらゆる専門分野のエンジニアが組み立てを監視し、潜在的な偏差をほぼリアルタイムで観察できるようになりました。このアクセスと可視性の向上により、チームはインサイトを得るまでの時間を平均 50% 短縮しました。「この反応性のおかげで、プロセスやコンポーネントに直接介入できるため、間違ったフィッティングを完成させたり、材料を無駄に浪費したりすることがなくなります。」と Simi 氏は付け加えます。

チームが監視する要素の 1つがドリフトです。ドリフトとは、部品の重要な測定値や性能パラメータが時間の経過とともに徐々に意図せず変化することです。たとえば、電力や燃料効率が徐々に低下したり、シーズンを通してセンサーの精度が徐々に低下したりすることがあります。「すべての情報が単一のデータレイクにあるため、傾向とドリフトを評価して異常値との関係を確認したり、製造プロセスにおける形状の差異を特定したりすることできます。」

図 2 : HAQM QuickSight ダッシュボード

HAQM Q in QuickSight の新機能により、レーシングエンジニアは Q&A 回答で重要な洞察やトレンドを発見したり、自然言語プロンプトで独自のダッシュボードを作成したりして、継続的なメンテナンスとレビューを行うこともできます。「このスポーツではスピードが不可欠です。すでに当社のデータとインフラはAWS上で良好な状態にあり、より迅速かつ正確に問題を発見し、調整を行うことができます。」

まとめ

自動化されたデータ収集と処理を ML に委任することで、Scuderia Ferrari HP 社は洞察をより迅速に収集、分析、行動に移すことが可能になりました。このプロジェクトがパワーユニット製造で最初に成功したことを踏まえ、同様の戦略が性能に関連する他の用途にも展開しようとしています。「シーズン中に大幅なアップグレードを導入することは規制によって制限されていますが、私たちのデータアーキテクチャは将来のイノベーションへの道を開いています。」と Simi 氏はまとめました。

Scuderia Ferrari HP チームは、メルボルンで開催されるオーストラリアグランプリで始まる 2025 年シーズンの準備に懸命に取り組んできました。あらゆるテスト、シミュレーション、および実際のパフォーマンスデータポイントを取得できると、改善の余地がある領域に関する貴重な洞察が得られます。「これにより、次世代のパワーユニット設計の主要な開発領域を特定し、優先順位を付けることができ、競争の激しい F1 の世界で大きく有利なスタートを切ることができました。」

お客様がどのようにデータ主導型の AWS ソリューションを活用して、スポーツの観戦、プレー、管理の方法を改革しているかをこちらで確認できます。

Keely O'Neill

Keely O’Neill

Keely O’Neill は、HAQM Web Services (AWS) でスポーツマーケティングのシニア統合マーケティングマネージャーで、Formula 1、Ferrari 社、Bundesliga とのパートナーシップの統合マーケティングを率いています。体験型マーケティング、コミュニティエンゲージメント、デジタルマーケティングで 12 年以上の経験を持つ Keely は、独自の専門知識を持ち、好奇心とデータインサイトに基づいた戦略的なキャンペーンを通じて、インパクトのある顧客体験を生み出します。現在の役職に就く前は、AWS スタートアップのグローバルマーケティングを担当し、Brooks Running Company 社と Tableau Software 社で役職を歴任しました。

このブログの翻訳はソリューションアーキテクトのシャルノ ミカエルが担当しました。原文は「How AWS supports Scuderia Ferrari HP to optimize Formula 1® power unit assembly process」です。