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KDDIスマートドローンの HAQM SageMaker AI 活用事例:ポート付きドローンによる太陽光発電施設の夜間監視

本ブログは、KDDIスマートドローン株式会社 PF事業部 PFシステム開発リーダー 山澤 開氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 新谷 が共同で執筆しました。

KDDIスマートドローン株式会社(以下、KDDIスマートドローン)は、最先端のドローン技術を活用し、さまざまな産業分野におけるソリューションを提供する企業であり、通信技術とドローン技術を融合させることで、新しい価値を創造し、社会の発展に貢献することを目指しています。同社は AWS 上でドローンの運航に関わる運航管理システムや空域管理システムを構築していますが、同時にドローンの空撮映像に対する AI 解析により点検ソリューションの提供を行うなど、データ活用を通じた課題解決にも積極的に取り組んでいます。

本ブログでは KDDIスマートドローン の寄稿により、ドローンによる監視ソリューションにおいて HAQM SageMaker AI を活用して夜間監視業務の支援を行った事例をご紹介します。

課題と背景

近年、銅の価格が高騰しており、5 年前と比較し約 2 倍になっています。 これに伴い、関東地方を中心として太陽光発電施設での銅線ケーブルの盗難事件が多発しています。太陽光発電施設は広大な敷地で警備が難しいという点、また多くの施設が山の中にあり人目につきにくい場所にあるという点から、犯行グループに狙われやすい状況です。施設内には監視カメラや機械警備としての赤外線センサなどが設置されている場合もありますが、知能的な犯行には気づくこと自体が難しかったり、警備員などによる巡回警備は発電事業者のコスト面から対応することが難しい状況となっています。

そこで、KDDIスマートドローンは遠隔運航で広範囲をカバーできるドローンを活用した監視システムを開発し、これらの課題を解決することを目指しました。特に、夜間監視においては、サーマルカメラ搭載のドローンを用いることで、視認性の低い環境でも不審者を検知することが可能です。これにより、夜間巡回の警備に要する運用負担や人的コストの緩和と、監視業務の効率化が期待されます。

ソリューションの概要

KDDIスマートドローンは、AWS の先進的な技術を活用し、夜間のサーマルドローン映像から不審者を検知する AI 解析機能を開発しました。不審者検知の AI モデルは、KDDIグループである 株式会社ARISE analytics の協力により実現しています。

本ソリューションでは、映像のリアルタイム配信、写真映像管理、AI 解析などの機能を提供しています。
以下、ソリューション活用の流れを解説します。

飛行計画とイベントタイプの登録

まず、ドローンを遠隔運航させて定期的な監視や点検等を行いたいエリアにドローンポートを設置します。利用者が飛行計画を登録すると、ドローンは計画に沿って自律的にポートから発着陸を行います。現在、ある太陽光発電施設では、夜間に定期的な巡回飛行を行っています。夜間であっても、現地で人手による目視監視や操縦を必要としない遠隔運航は、業務の効率化や高度化の観点で大きなメリットです。また、イベントタイプを登録することで、リアルタイムに空撮画像を AI で解析し、人物検知などのユースケースに沿ったイベントの発生を利用者に通知することが可能です。

イベントタイプとスケジュールの登録画面

太陽光発電施設における銅線ケーブルの盗難防止に向けては、夜間の不審者検知イベントを通知可能な AI モデルを利用可能にしています。今後、ユースケースを拡充し、現場やドローン機体に合わせてイベントタイプを選択できるよう AI モデルも拡張していく予定です。

ドローン空撮画像のリアルタイム解析

ドローンの映像は、リアルタイムに Web アプリケーションに配信され、遠隔でモニタリングが可能です。Skydio や DJI のサーマルカメラ付きドローンにより夜間の太陽光発電施設であっても、映像をクリアに配信し、AI モデルによる不審者の検知と通知が可能です。

サーマルカメラ付きドローンによる夜間監視と不審者検知の様子

ドローン空撮映像/画像の管理

ドローンの飛行が終わると、空撮映像と画像は自動的に AWS 上に保存されます。利用者は、マップビューワーを照合しながら位置情報や日時とともに、見たい画像をすぐに確認することが可能です。保存された空撮画像に対しても、3 次元復元や生成 AI 連携などの高度な活用を今後検討しています。

マップビューワーによる空撮画像の確認

アーキテクチャ

本システムは HAQM SageMakaer AI をはじめとした AWS マネージドサービスをフル活用して開発しました。
不審者検知の AI 解析を実現しているアーキテクチャは以下の通りです。

アーキテクチャ

不審者検知のために YOLOX をベースにトレーニングした AI モデルは、SageMaker AI のリアルタイム推論エンドポイントにデプロイします。ドローンがポートから離陸して自律飛行を開始すると、空撮画像は AWS クラウド上にリアルタイムでストリーミング配信されます。受信した映像は、 AWS Fargate のコンテナアプリケーションで OpenCV による画像処理を行い、静止画への切り出しを行なった上で、HAQM S3 に保存します。静止画の保存後に、AWS Fargate から、HAQM API Gateway と AWS Lamdbda で実装した API を実行し、SageMaker AI の推論エンドポイントにリクエストを送信します。推論の結果、人物が検知された場合はフロントエンド画面に対してイベントを通知します。

推論 API は、今後のユースケース拡大や外部公開を見据え、スケーラビリティの観点から HAQM API Gateway により実装しています。SageMaker AI のリアルタイム推論では、g5 インスタンスを使用しました。リアルタイム推論では、同時に飛行するドローンの機体が増えて推論リクエストが増加しても、負荷に応じてキャパシティをオートスケーリングできる点が利点です。今回のユースケースでは、夜間飛行がメインの利用となることから、日中帯のインスタンス数を削減しコストを最適化するために SageMaker AI のScale Down to Zero 機能によりインスタンス数を 0 にする検証や、予約スケジュールに基づき推論エンドポイントを立ち上げる運用も検討しています。また、今後のリクエスト増によりエラーレートが高くなるなどの課題が発生してきた際は、SageMaker AI の非同期推論の導入も視野に入れています。

効果と今後の展望

本システムにより、太陽光発電施設の広範囲を効率的に監視できるようになり、監視業務のコスト削減と迅速な対応が可能になりました。ドローンポートから遠隔飛行で運航可能なドローンと、AI 解析を備えた監視システムを用いることで運航者が複数のドローン機体を運航することが可能となり、また目視による不審者の検知漏れを削減することが期待されます。

今後も、AI モデルによる異常検知の精度向上やユースケース拡大に向けてさらなる開発を進めていく予定です。今回開発した不審者検知の AI モデルの他にも様々なモデルを SageMaker AI の推論エンドポイントにホスティングすることで、利用シーンや場所に応じて適切な AI 解析機能の使い分けを実現することができます。例えば、不審車両の滞留検知や、リアルタイムな地上の人物検知をドローン運航の安全性に活かしていく活用方法なども考えられます。

KDDIスマートドローンは AWS の技術を活用することで、ドローンによる監視システムの可能性を広げ、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。そして、AWS とのパートナーシップを通じて、今後も革新的なソリューションを提供していくことを目指していきます。

まとめ

本ブログでは、KDDIスマートドローン株式会社による、ドローンと AWS を活用した太陽光発電施設の監視ソリューションをご紹介しました。広大な太陽光発電施設の夜間警備という課題に対し、ポートから自律的に発着陸して遠隔飛行が可能なドローンで巡回監視を実現しています。ドローンの空撮映像と、SageMaker AI 等の AWS マネージドサービスを組み合わせることで、リアルタイムな不審者検知も可能にしました。本事例での AWS 活用が皆様のビジネスにおけるカメラ映像活用や AI 導入の検討に参考になれば幸いです。

著者

山澤 開

KDDIスマートドローン株式会社 PF事業部 PFシステム開発リーダー

新谷 歩生

アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
技術統括本部 通信グループ シニアソリューションアーキテクト