HAQM Web Services ブログ
AWS Customer Carbon Footprint Tool の算出方法論の更新
このブログは 2025 年 4 月 23 日に Margaret O’Toole、Alexis Bateman、Marta Fraga、Paula Csatlos によって執筆された内容を日本語化したものです。原文はこちらを参照して下さい。
お客様の持続可能性への取り組みを支援するため、2022 年に AWS の請求とコスト管理コンソールに顧客の二酸化炭素排出量ツール (CCFT) を導入しました。CCFT は、お客様の AWS 利用による炭素排出量を追跡、測定、確認できるツールです。CCFT は、温室効果ガスプロトコルで定義されているスコープ 1 とスコープ 2 の排出量を対象とし、HAQM EC2、HAQM S3、AWS Lambda など、AWS の製品全範囲をカバーしています。排出量はメトリックトン二酸化炭素換算 (MTCO2e) で提供されます。
本日、CCFT の継続的な改善プロセスの一環として、3 つの更新内容を公開します。
- データアクセスの簡易化:請求とコスト管理データエクスポートサービスを通じて、お客様の炭素排出量データへのアクセスを容易にします。
- より詳細な炭素データ:CCFT の粒度を高め、AWS リージョンを表示するようになります。
- 更新された独立検証済みの方法論:APEX 社による検証済みの更新された配分方法論 (v2.0) と付随する方法論に関する文書を公開しています。
これらの変更の結果、お客様は 2025 年 1 月以降の AWS 利用に関して、更新された方法論を反映した炭素排出量を確認できるようになり、一部のお客様は推定排出量の数値に変更が見られる可能性があります。業界の慣行に従い、2024 年 12 月以前の CCFT データは、従来の方法論 v1.0 を引き続き使用します。
CCFT 更新の詳細
1. データへのアクセスを容易に
CCFT からのデータをより使いやすくするため、お客様は現在、AWS の請求とコスト管理データエクスポートサービスを通じて 2025 年 1 月のデータをエクスポートできるようになりました。お客様が AWS Organizations を使用している場合、炭素排出量データのエクスポートは、管理アカウントにリンクされているすべてのメンバーアカウントの炭素排出量推定値を提供します。データエクスポートサービスは、CSV または Parquet 形式で月次更新を自動的に HAQM S3 に配信し、お客様は AWS 組織全体で炭素データの処理を自動化できます。最初のエクスポートでは履歴分析を可能にするため、S3 バケットに最大 38 ヶ月分の履歴データが提供されます。2024 年 12 月以前のデータはバージョン 1.0 の方法論を使用して計算され、2025 年 1 月以降はバージョン 2.0 を使用します。データエクスポートの設定方法の詳細については、データエクスポートユーザーガイドをご参照ください。
2. AWS リージョン別の詳細度
お客様は現在、AWS リージョン(例:米国東部(オハイオ))ごとに炭素排出量の内訳を確認でき、HAQM CloudFront CDN の使用量も別途表示されます(単一のグローバルサービスカテゴリとして表示)。これにより、お客様は AWS 上のワークロードのリージョン分布を再評価する際に、カーボンフットプリントに最も寄与しているリージョンを特定できます。
3. 更新された v2.0 の方法論
お客様は多くの場合、複数のリージョンにまたがって幅広い AWS サービスを使用しており、その結果、ワークロードに基づく炭素排出量の追跡と配分が課題となっています。クラウド使用に関するお客様への炭素排出量の配分について業界標準は存在しませんが、v2.0 の方法論の更新では、CCFT をサポートするために既存の基準を活用しました。これには以下が含まれます: GHG プロトコルコーポレートスタンダード、GHG プロトコルプロダクトスタンダード、ISO 14040/44 (LCA)、ISO 14067 (製品のカーボンフットプリント)、ICT セクターガイダンス。
お客様は方法論に関する文書で詳細を確認できますが、以下にアプローチの概要を示します:
スコープ 1 排出量 (直接) の概要 v2.0 版
スコープ 1 には、AWS が所有または管理する発生源からの直接排出が含まれます。例えば、データセンターのバックアップ発電機での燃料燃焼などです。AWS は、HAQM の年次保証プロセスの結果として、前年のスコープ 1 活動データを翌暦年の第 1 四半期に受け取ります。その後、サイトレベルの粒度で推定炭素データを計算し、クラスターレベルに集計します。AWS クラスターは、AWS リージョン(例:us-east-1、eu-central-1)または AWS CloudFront Edge Cluster(例:北米の CloudFront、南米の CloudFront)となります。
スコープ 2 排出量 (間接) の概要 v2.0 版
スコープ 2 には、購入電力からの間接排出が含まれ、CCFT ではマーケットベース方式を採用しています。例えば、グリッドミックス(グリッドからのカーボンフリーエネルギーの割合)や排出係数 (kgCO2e/kWh) は毎年更新され、HAQM のカーボンフットプリント保証の一環として検証されます。スコープ 2 について、CCFT はロケーションに基づく排出係数を使用し、温室効果ガスプロトコルが推奨する排出係数の階層に従っています。
v2.0 の配分概要
このモデルでは、まず AWS クラスターレベルでサーバーラックに排出量を配分し、次にリソース消費量に基づいて特定の AWS サービスにそれらの排出量をマッピングします。このモデルは、専用ハードウェアを持つ基盤サービス(例:HAQM EC2)とその基盤の上に構築された非基盤サービス(例:AWS Lambda)間の依存関係を考慮します。最後に、これらのサービスを利用する各お客様アカウントに排出量が割り当てられます。
モデルは以下のように機能します。
- クラスターレベルの推定排出量をクラスター内のサーバーラックに配分します。
- サーバーラックのリソース使用率に基づき、相互依存関係を考慮しながら、サーバーラックに関連する推定炭素排出量を AWS クラウドサービスに配分します。
- 各クラウドサービスに関連する推定炭素排出量を個々のお客様アカウントに配分します。
CCFT の方法論が更新されたことにより、一部のお客様は推定排出量が変更される場合があります。これは、バージョン 2.0 がカーボン排出量をより正確にお客様ごとに割り当てられるようになり、実際の AWS サービス利用状況をより的確に反映できるようになったためです。
方法論 v2.0 における 3 つの主要な更新内容:
- 現在、未使用のキャパシティをすべての AWS カスタマーに配分しています。AWS は、すべてのお客様のニーズに効果的に対応できるよう、十分なサーバーラックを提供しています。これにより、時として未使用のキャパシティが発生します。この未使用のキャパシティに関連する推定炭素排出量は、現在 AWS サービスを利用するすべてのお客様に比例配分されています。これは、GHG プロトコル、プロダクトレベルの炭素報告に関連する ISO 規格 (ISO 14040/14044)、およびクラウドとデータセンターサービス業界のセクターガイダンスにおいて、お客様に製品 / サービスを提供するために必要なすべての余剰リソースと非効率性を含めることが要求されているためです。
- AWS Lambda や HAQM Redshift など、専用ハードウェアを持たない AWS サービスからの推定排出量を AWS のお客様と HAQM チーム間で配分するロジックを改善しています。
- ネットワークラックや AWS カスタマー向けの新規リージョン立ち上げに関連する推定炭素排出量など、データセンター運営に関連するオーバーヘッドの配分を更新しています。
お客様のニーズを起点に、私たちは引き続きツールの改善を進めてまいります。お客様は、方法論に関する文書、CCFT ユーザーガイド、およびデータエクスポートユーザーガイドをご覧いただくことで、これらの更新について詳しく知ることができます。
今後も、進化するデータや気候科学などに基づいて方法論の更新情報を発信し続けるとともに、お客様の持続可能性への取り組みを支援する機能の開発に継続的に投資していきます。
The Climate Pledge への誓約
The Climate Pledge (2040 年までにカーボンニュートラルを達成するという HAQM のコミットメント) や、AWS を含む事業全体における持続可能性への投資についての詳細は、ここの当社のサステナビリティサイトをご覧ください。
翻訳はソリューションアーキテクトの Yoshinori Sawada が担当しました。